小宮山サト(漫画家・イラストレーター)さん直撃インタビュー
2021.03.29

講談社にて第91回新人漫画賞を受賞し、漫画『アシごと! 』 で話題を呼んだ小宮山サトさん。今はイラストレーターとしても活躍されています。『アシごと! 』には、漫画家のアシスタント時代に驚いた体験や苦労話など、リアルな漫画の仕事の世界の話が描かれています。そんな小宮山さんに漫画やイラストの仕事の裏側について、直接インタビューしてみました。
友達が思い出させてくれた「子供のころの夢」
『アシごと! 』を読ませていただきましたが、出版社への持ち込みがきっかけで漫画家デビューされたんですね。
はい。アポを取って、連絡して、持ち込みしては戻され、また持ち込みしてというのを一年に3~4回やっていました。
出版社への持ち込みって、断られるのでは?
断られるっていうことはなかったです。漫画の持ち込みって、窓口が開いていて、雑誌を買うと「持ち込み歓迎、〇〇編集部までご連絡ください」ってどこかに書いてあります。それを見て連絡を取って持ち込みました。大学浪人中に時間があったので、漫画を描いては出版社に漫画を投稿していたんです。
編集部では、新人賞とか月例賞など、定期的に漫画賞が開催されています。持ち込みをして見込みがあれば、「この賞に出してみませんか」と、誘われるんです。僕の場合は編集部の方に「三月に新人賞があるから、それに向けて一緒にネームを作って出しませんか」と言われて賞に応募しました。漫画の場合、そういう形でオープンに募集している会社が結構多いですね。
浪人しながら漫画ですか。すごく大変だったのでは?
そうですね。けれど漫画で連載を取るためには、まずは投稿して連載会議を通過する必要がある。だからまずは投稿しないと始まらないっていうのがわかっていたので、そういう苦労は早め早めにやってしまおうと思って、行動に移したんです。
ご出身は岡山なんですね。漫画家になりたいと思って上京されたのですか?
上京の一番の目的は進学でした。もともと漫画やイラストを描くのが好きだったので、美術系の大学に行きたいと思っていて。有名な美術大学って関東に偏っているので、関東で進学しようというのを決めていて、大学に受かったので上京してきました。
とはいえ、美大に行く前に、すでに漫画を投稿していたんですよね。どうやって描き方を勉強したのでしょうか。
最初は本当に好きな漫画の見様見真似でした。「学んだ」といえるのは、編集部に持ち込みして、目をかけてもらえるようになってからですね。原稿を見た編集部の方に「次はネームを一緒に作りましょう」って言われたんですよ。ネームっていうのは漫画の設計図のようなもので、コマ割りやキャラクターの位置、セリフなどを最低限わかるように書き起こしたものです。それを編集部に見てもらうようになると、「こういう展開にしたほうがいいんじゃないか」とか、「キャラが弱いからこうしようとか」、アドバイスがもらえます。そこで一緒に漫画の作り方を学ぶという感じでした。
絵の仕事がいろいろある中で、漫画家になろうと思った理由はなにかあったんでしょうか。
僕は小さいころからよく絵を描いていたんです。周りには絵が描ける子がいなかったので「小宮山君うまいね」、というようなことを言ってもらえて。学校の先生に「将来何になりたいか」って聞かれたときも「漫画家になりたいです」と言っていました。けれど、進学するころには、それを忘れかけていたんです。
それが、成人式のときに、小学校のときの友達に会って「今何やっているの」って聞かれて。「美術大学入学に向けて絵の勉強をやってるんだよ」って言ったら、「小宮山君漫画家になりたいって言ってなかったっけ? 」ってぽろっとその友達が言ってくれて。
「そういえば漫画家目指しているって言ってたよな」ってそのとき思い出しました。漫画家になりたいって言ったのが口だけになるのはちょっといやだなってちょっと思って、そこから漫画の投稿もやりはじめたんです。
それは…友達の言葉は運命の一言でしたね。
そうですよね。あの一言がなかったらもしかしたら、漫画をやっていないかもしれない。
50ページ分のネームを2週間~1か月かけて描いては没、を繰り返す

アシスタントの仕事を始めたのは編集部の方の紹介がきっかけということでしたが、やりたいと思った理由は何でしたか。
漫画家先生のところに修行みたいな形で行かせてもらうことができるからです。
面倒見のいい作家さんだと、ネームを見てくれたりして、「こういうふうにしたらいいんじゃない」ってプロの意見をいただけるんですよ。同じ職場に仲間もできて、そこでも情報交換できる。僕がアシスタントをやり始めたころはそれが普通でした。
けれども、今はちょっと事情が変わってきてはいます。今アシスタントってほぼテレワークができちゃうんですよ。そうすると先輩や同僚から学ぶというのが難しい。現場に行っていない分、ネームとか見てもらうには、図々しくデータを送ったりしないといけない。実際に行くよりはかなりハードルが上がっちゃっているなと思います。
『アシごと! 』の中ではアシスタントになって驚いた経験などが生き生きと描かれていました。今その頃を思い出して印象に残っていることはありますか。
漫画にも描いたのですが、プロが使っている漫画の背景って、すごいんです。素人のときに自分が描いていた風景と比べると、2ランクも3ランクもレベルが高い。ものすごいクオリティのものを求められるので「こんなに細かく描かなきゃいけないの」とか「こんなに正確にパースとか取らなきゃいけないの」とか…。レベルが高いっていう意味での驚きはめちゃめちゃありました。
業務量も結構多いイメージですが、忙しかったですか。
最初に入った職場ではまだ大学生だったので、月3日とか、日数は少なくしていただいていたんですけど。一度シフトに入ると向こうの職場に泊まりっていう形で働いていました。1日12時間は作業していましたね。でも10年くらい前ってそれくらいだとまだ当たり前だったので、そんなにハードだったという印象ではないです。
『アシごと! 』連載後、次の作品が没になったとHPに書いていらっしゃいましたが、どこまで作業が進んでから没になるのでしょうか。
連載案のネームを出すときにはその月の連載の1話目を出すんです。分量でいうと50ページ分くらいのネームを出して「これで連載どうですか」って見せるんですけど、これがなかなか通らなくて。
50ページ?辛くないですか?
つらいですね(笑)
50ページのネームって想像がつかないのですが、作業にどれくらいかかる分量なんですか?
人によりますが、2週間~1か月はかかるんじゃないでしょうか。
うわー。
でもほんとそんなものです。漫画家さんの仕事って。
今はコロナで漫画の連載が遅れることがあるようですね。リモートでは漫画の製作は難しいのでしょうか。現場はどのように変わっていますか?
編集部も大変だったみたいです。前々からリモートにされている漫画家さんもいたんですけど、今も紙にペンで描いてらっしゃる漫画家さんもいるんですよ。そういう場合完全リモートだと効率が下がります。
紙の場合どういうふうに工程が違うんでしょうか?
紙の場合、まず作家さん本人がペン入れっていうのをするんです。キャラクターや重要な人物を先に描いて、「じゃああなたこの背景を描いてね」っていうふうにアシスタントさんに渡します。そしてアシスタントさんが背景を描いて、仕上げまでやって提出します。
つまり手書きの作業だと、紙の受け渡しが必要で、それがリモートだと時間がかかってしまうんですね。
そうですね、全部アナログでやるとなるとそうなってしまうので、そういう職場はデジタルに移行せざるを得なくなっています。スキャナでペン画を取り込んで、デジタルでアシスタントさんに渡すという工程に変わってきています。
これからイラストや漫画を描きはじめるとしたらやっぱりデジタルでしょうか。
うーん…アナログでしか描けないイラストっていうのも存在するんです。たとえば水彩画のにじみ表現をデジタルで再現する方法ってほとんどないんですよね。にじみって完全にランダムなものなので。独特な色彩表現はアナログでしか表現できない。けれども確かに、デジタルのほうが要領はいいので、おすすめするならデジタルかなとは思います。
HPによると、そのあと知人に勧められてイラストの仕事に進まれたんですね。
はい、今メインはイラストの仕事ですが、アシスタントも並行してやっています。
イラストの仕事って景気に左右されやすいので。例えば今回はコロナの影響で人が出歩かなくなりました。そうすると広告打つ意味もなくなってくるので、広告の仕事が減り、イラストレーターの仕事も減ってきます。アシスタントと両立したほうが収入的にも安定するんです。
しっかりリスクヘッジされていますが、反対に忙しくなるときは超多忙では。
はい。でも割と手(絵を描くスピード)は早いほうなのでなんとかなっていますね。
広告の仕事を取るために見本を1枚数週間かけて製作
こちらのイラストは、「今売り出したいタッチ」とのことですが、HPには制作に1~2週間かかるとありました。なぜこの絵を描かれたのですか。
広告のポスターの案件を取りたいと思っていたので、それに合うような作品を作っておけばアピールになると思って、あのイラストを仕上げました。
かなり細かく描きこんでいるので、確かに時間はかかります。その分似たような絵を描ける人も限られてくると思うんです。ほかの人が描けない絵柄を書くことがすごく大事だと思い、わざと時間をかけたというのもあります。
魚眼レンズのような構図なんですね。
魚眼パース入れるのが結構好きで。魚眼パースは、描ける人も少ないから、それが特徴になったらいいなと思います。あと、広告という視点で見ると、魚眼パースを使えばいろいろなものが入れやすいんですよ。普通の空間には入りきらないものも、無理やり入れられる。間違い探しのお仕事をいただくこともあるんですが、そういうところでもつい魚眼を使ってしまいます。
何か、魚眼タッチにこだわり始めたきっかけのようなものがあったのでしょうか。
『NARUTO―ナルト―』という漫画の影響です。作者の岸本斉史さんは、『AKIRA』という漫画のファンだそうです。『AKIRA』の絵はすごく構図にこだわっていて、魚眼パースや三点透視といった珍しい構図がたくさん取り入れられています。それに影響を受けて『NARUTO―ナルト―』にも魚眼パースがたくさん取り入れられている。それを見て育ったので、「これ描けたらかっこいいな」と思い、自分の漫画にも頑張って取り入れていました。その頃の努力が、今のイラストにも活かされていますね。
自分の腕を上げたり、仕事を取るうえで大切にしていることはどんなことですか?
堀江貴文さんがおっしゃっていて僕もすごく共感できるなって思っている言葉があります。今情報はインターネットでグローバル化していて、誰にでも検索ができる。例えば「魚眼パースを描くにはどうしたらいいのか」について調べようと思ったら、昔だったら本を買うか、図書館に行くか、学校に行って習うかっていう方法しかなかった。けど今魚眼パースの描き方なんて全部ネットに載っています。だから技術的には同じレベルの人ってすごくたくさんいるんです。その中でどうやって仕事を取るかについて堀江さんは「誰よりも早く行動して、誰よりも早く手を上げるしかないんだ」「とにかく行動力がものをいう時代になっている」というようなことをおっしゃっていて、大変共感しました。イラストの仕事が欲しいんだったら誰よりも多く営業する。誰よりも多く行動して、手を挙げるようにしていこうと思っています。
今後はどんな仕事をしていきたいと思っていますか。
今は、ポスターとか学校案内、会社案内とかそういった広告案件の仕事を増やしていきたいと思っています。営業ツールとしての作品も完成したので、そういう方向性の仕事を増やしていきたいですね。
では最後に読者に一言!
フリーランスとして仕事を取るために誰よりもたくさん行動していこうと思います。僕も一緒にがんばるので、フリーランスの方々皆さんとともに、幸せに仕事ができたらいいなって思っています!
フリースタイルマガジンをフォローする
RANKING 人気の記事
CATEGORY カテゴリー